世界に和服を発信するために
JOSUKEの最新作としてリリースされる『蜉蝣』(かげろう)のミュージックビデオ(以下MV)が公開された。作中でJOSUKEが着用している衣装は、ストリート着物ブランド「VEDUTA」だ。
VEDUTAのデザイナー・渡邉仁氏はかねてよりJOSUKEと親交が深く、念願叶ってのコラボレーションとなった。
「出会いは2年前の年末。共通の知人から『世界に和服を発信するために、新潟の佐渡島から名古屋にやってきたおもしろい奴がいる』と紹介されたんです。冬なのにモコモコした浴衣を着て、暑い暑いって汗をかいていて(笑)。すごくインパクトがありましたね」(JOSUKE)
「はじめは『VEDUTA』のウェブサイトを作りたくて相談させてもらったんだけど、いろいろと折り合いがつかなくて流れちゃったんだよね。だけど、そのあと僕らがお世話になっている飲食店の集まりで再会して、意気投合しちゃって(笑)」(渡邉)
ミラノで行列だった日本の鎧兜
渡邊氏は佐渡島の出身。大学に進学するため上京し、卒業後はアパレルに就職。2008年、21歳のときにミラノで和服を“再発見”する。
「洋服の勉強に行ったんですが、西洋人のためにつくられた洋服では外国人を超えることはできないと気づいてしまって。そんなときに、日本の鎧兜の展示会にミラノの人たちが並んでいるのを見て、和服を世界に発信したいと思ったんです。そこで10年後にブランドを立ち上げることを心に決めました」(渡邉)
それからちょうど10年後となる2018年1月、VEDUTAを設立した。掲げたビジョンは、着物をストリートファッションとして提案すること。
「日本人だからって必ず着物や和柄が着たいわけでもないし、いまの人たちがイケてると思うものでないと選んでもらえない。だから世界の風景、建築、アートなど、時代を切り取った最新のトレンドを和服に取り入れています。他にこんなことやってるブランドはないので、VEDUTAには競合がいないんですよ(笑)。保身のために値段を釣り上げることしかできなくなっている、呉服業界への反発心でもありますね」(渡邉)
現代の日本人が失いつつある独立性や多様性
渡邊氏が生まれた佐渡島は、その昔、京の政争に破れた天皇家や貴族たちの流刑地となっていた。猿楽師の世阿弥や日蓮聖人など、時の異端児たちが行き着き、絶海の孤島ながら都の最先端の流行と伝統が入り混じった、独自の文化が築かれていたという。
「破壊と創造が繰り返されていた島なんです。歴史的に見ても日本の強みは受容性だと思っています。現代の日本人が失いつつある独立性や多様性を覚醒させるために、僕はVEDUTAを立ち上げました」(渡邉)
JOSUKEが「トガってる」と評すると、「JOSUKEさんも一緒でしょ」と笑いかえす渡邊氏。今回のコラボレーションはJOSUKEからの発案だったという。
「僕も最初は和服に固定概念があって、ビジュアル系でもKagrra,や陰陽座など、音楽性も和をテーマにしたバンドのイメージがあった。だから、自分の音楽には合わないんじゃないかと思ってたんです。でもVEDUTAの和服は、そういうトラディショナルなものではなく、革新的なイメージを持っていることに気づいて、だったらJOSUKEの世界観にもハマるんじゃないかと声をかけました。ただ、着こなせるかという不安はちょっとありましたけど(笑)」(JOSUKE)
「着こなせすぎてJOSUKEさん以外の人だったらありえないコーディネートでしたよ。何枚も試着してもらって、最後に行き着いたピンク×グリーンがバシッとハマりました」(渡邉)
「JOSUKEさんには色気のあるものが似合う」
浴衣の上に浴衣を羽織る“浴衣オン浴衣”でいくことは、はじめからJOSUKEの頭の中にあった。下に着用したピンクのグラデーションが映える浴衣は、ダイアナ妃が新婚旅行で訪れたエルーセラ島の砂浜、ピンクサンドビーチが全面にプリントされている。その上から南米のカクテルであるモヒートをモチーフにした、グリーンの浴衣を羽織った。
「モヒートの語源は『相手を濡らす』。口説く時に使うお酒なんですよね。やっぱりJOSUKEさんには色気のあるものが似合いますね」(渡邉)
VEDUTAがアーティストに衣装提供を行うのは今回が初めてではない。K-POPグループのM.FECT、卍ライン(窪塚洋介)、HIPHOPレジェンドの餓鬼レンジャーなどが、これまでステージやスチールで着用してきた。
「そして2019年にJOSUKEさんとのコラボが叶った。僕はずっとHIPHOPで育ってきた人間で、若いころは自分でトラックを作って渋谷のクラブでライブをしていたことがあって、ブランドでもHIPHOPを意識しているところはあります。イメージ的に結びつきにくいかもしれないけど、JOSUKEさんにもHIPHOPの根底に流れる反骨心のようなものが感じられて、感覚が近いのかなと思っています」
これから一緒に世に出ていきたい
ふたりは思想的にも、しっかり通じ合う部分が多いそうだ。
「表現の方法が違うだけで、芯は同じだと思う。一緒にいればいるほどそう感じるんだよね。それぞれセンスは別だけど、波長が合う。同い年ということにも縁を感じているし、これから一緒に世に出ていきたいと思える特別な存在です」(JOSUKE)
初コラボとなった『蜉蝣』はともに歩む第一歩。惹かれ合う同い年の革命家が、これからどんな“VEDUTA(=景色)”を見せてくれるか楽しみだ。
(文:森野広明/編集:田島太陽[BLOCKBUSTER])